1 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/08/27(日) 01:30:52.40 cxaNInJko


 「プロデューサー」


俺を捕まえていた手が、するりと頬へ回される。
滑らかな指先に包まれて、冷えた頬が温度を取り戻していく。


 「冷たいです」


良い匂いがする。
吐息が首をくすぐる。
衣擦れが耳に響く。
ベッドが軋む。


 「だから」


彼女の瞳は今、どんな色をしているだろう。



 「あったかくしてください」

2 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/08/27(日) 01:32:21.79 cxaNInJko

身体をむりやり捻って、楓さんと顔を突き合わせた。
横倒しになった色違いの瞳が、薄暗さの中にあってなお、神秘の光を湛えている。

 「かえっ、ぁ……あの、ですね」

決意とともに吐き出した筈の言葉。
頼もしさは一息の間にかき消えて、あっという間に喉が震え出す。
目の前のアイドルは笑うことも無く、二度、控え目なまばたきを繰り返した。

 「お酒を……飲みました」

 「はい」

 「だからつまり、楓さん、その」

 「ええ」

 「こんな風な、酔ったままの勢いの、そういうのは、良くないと」

竜頭蛇尾とはきっと俺の事を指してるんだろう。
威勢の良さは最初だけで、言葉は見る間に途切れてしまった。
15センチ前の美貌。
揃ったまつ毛すらよく見えるこの距離で、楓さんは何事かを考えていた。


 「えーっと……」

そう思ったのも束の間。
おもむろに半身を起こすと彼女は枕元にあった携帯電話を拾い上げた。
混乱する俺をよそに、白い顔が液晶のバックライトに照らし出される。
何度か操作をすると明かりは消えて、再び暗闇が俺達を覆い隠した。
一瞬の輝きに慣らされた目が、すぐそこにある筈の姿を見失う。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/08/27(日) 01:35:52.08 cxaNInJko



 「じゃあ、来月末の、金曜日の夜。きちんと、しましょう」

4 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/08/27(日) 01:37:36.24 cxaNInJko

言葉というのは、主語が抜け落ちていようと案外伝わってしまうもので。

だからこそ俺は固まった。
今までの行動に何か間違いが無かったか考え直す。
いや結局、全て間違えてた、という事なんだろうけれど。

 「…………あ、の」

 「おやすみなさーい」

話は終わったとばかりに話を終え、楓さんが布団を被る。
その時ようやく、せっかく向けていた背中を戻してしまった事に気付く。
気付いた時には全てが遅過ぎて、楓さんの両腕が俺の身体を捕まえてしまっていた。

 「おやすみなさい、プロデューサー」

 「…………おやすみなさい」

俺の胸元へ顔を埋めて、楓さんがそれきり黙り込む。
ワイシャツから染み込んでくる吐息は火傷してしまいそうな熱さだった。
僅かに髪が揺れる度、それはそれは良い香りが漂う。

 「……」



……いや、寝れる訳ないだろう。

5 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/08/27(日) 01:39:02.71 cxaNInJko

小悪魔な女神様こと高垣楓さんのSSです





前作とか
アナスタシア「流しソ連」 神崎蘭子「そうめんだよ」 ( http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1501850717/ )
相葉夕美「プロデューサーに花束を」 ( http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1485851599/ )

関連作
高垣楓から脱出せよ ( http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1483426621/ )


上記『脱出せよ』の続編です
直接的な性描写を含みます
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/08/27(日) 09:10:03.84 ed0ItNnV0
楽しみ
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/08/28(月) 07:25:12.56 0R1rvnuAo

 ― = ― ≡ ― = ―

 「本当に、何も、していないんですね?」

 「本当に、何も、していません」

 「誓って?」

 「誓って」


まだ。


言える訳のない一言を飲み込んだ。
小会議室の中で、机を挟んで、ちひろさんと見つめ合う。
掌の中のタイピンがひどく生暖かい。

随分と久しぶりに見る気がするちひろさんの真顔。
脂汗も垂れそうになる頃に、ようやく見慣れた笑顔へと変わってくれた。

 「ふむふむ。分かりました」

 「……ご理解頂けて何よりです」

 「言うまでもないですけれど、あなた達はアイドルとプロデューサーなんですからね」

 「はい」

言われるまでもない。
言われるまでもない台詞が鼓膜に突き刺さる。

 「ああ、でも」
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/08/28(月) 07:25:55.71 0R1rvnuAo

 「……?」

 「一番困るのは、アイドルさんがやる気を失っちゃう事ですし」

 「はぁ」

 「アイドルのモチベーションを維持するのも、プロデューサーの責務かもしれませんね」


 「……ええと……ちひろさん。その」

 「あぁ、今日も良いお天気ですね。お仕事、頑張ってください♪」

ちひろさんはすっかりいつもの調子を取り戻していた。
同僚達から閻魔帳と呼ばれているファイルを抱え、スキップで小会議室を後にする。
閉じるタイミングを失って、しばらく馬鹿みたいに口を開けていた。

 「……」

以前から気になってはいた。
気になってはいたが、深く考えてはいなかった。
何か、こう、何とは言えないが、繋がっている気がする。

ふと、いつの間にか置かれていたスタドリに気が付いた。
奇天烈なデザインの蓋を指で撫でる。
ちくりと痺れる痛みと共に、今日もまた一日が始まろうとしていた。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/08/30(水) 00:36:19.38 elmvqHxWo
待ってたぞ…!
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/08/31(木) 19:28:11.80 +01Y39Wao

 ― = ― ≡ ― = ―

 「はっ……はぁ、っ」

頬を染め、息を荒げ、楓さんが喘ぐ。
浮かんだ珠の汗を拭うと、下がりつつあった視線を戻した。

 「まだ……まだ、でき、ます」


信じられないものでも見るように、麗さんがぽかりと口を開けた。

 「高垣……お前……」

 「お願い、します。もう少しだけ」

肩を揺らして、それでも楓さんは確かにそう言った。
その瞳をじっと覗き込んでから、麗さんが背後の俺を振り返った。

 「今のを聞いたか。プロデューサー君」

 「……ええ」

 「随分と……久しぶりだよ。こんなに迫力のある彼女は」

 「……ええ」
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/08/31(木) 19:28:51.44 +01Y39Wao

普段通りのダンスレッスン。
ジャージに身を包んだ楓さんがスポーツドリンクを空にする。
タオルで拭われた表情は、変わらぬ真剣さを帯びていた。

 「一体、どうしたっていうんだ」

 「……アイドルとして」

 「ん?」

 「だらしない身体では、がっかりさせちゃうかもしれませんから」

 「た、高垣……!」

麗さんがとうとう目元を拭い始めた。
感じ入ったように頷く彼女の前で、楓さんが身体のあちこちへ確かめるように触れる。
一通り撫で終えると、今度は俺へと微笑んで。


 「ね?」


同意を求める笑顔を、俺は真っ直ぐに見られなかった。
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/09/01(金) 00:21:15.39 q+12vlcHo
よい
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/09/01(金) 00:27:29.20 1hR7rwwU0
いやーーー すんません ホントすんません
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/09/02(土) 11:14:33.47 6/0diHgSo
これからひと月やきもきしながら焦らされるとか控えめに言って至福
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/09/04(月) 23:05:26.95 JwZVJIWBo

 ― = ― ≡ ― = ―


落ち着かない。


いや、自宅に居ても落ち着かない状況自体は珍しくも何ともない。
ライブの前やCDのリリース直前なんかは落ち着く事の方が少ないくらいだ。
ただ、そういった場合に心を宥める方法なら、俺はもう知っている。

ベッドから身を起こし、本棚に納まる分厚いファイルから一冊を抜き出した。
適当に開いてみると、挟まっていたのは何枚かのメモと写真。
『Nation Blue』発売前のものだった。

 「……」


『こいかぜ』。
『ワンダフルマジック』。
『プロダクションPV』。


プロデューサーとはつまり、アイドルを信じる仕事だ。
これまで積み重ねてきたものを、俺達が魔法と呼ぶそれを、ただ愚直な程に。
だから、新しい何かが始まる時は、こうして過去を振り返る。
そうしている内に、逸っていた心は穏やかになっていく。

いつもなら。
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/09/04(月) 23:08:28.90 JwZVJIWBo

ご機嫌な笑み。
打ち上げの赤ら顔。

今までの彼女を見つめ直す度、ページをめくる度、落ち着くどころか。


 『アイドルとして』

 『がっかりさせちゃうかもしれませんから』

 『ね?』


アルバムを閉じる。
しばらく部屋を眺め回していると、クッションが目に留まった。
ベッドの木枠に挟み、その間に両足を差し込む。
膝を曲げ、大きく息を吐いて、上半身を持ち上げた。


後でランニングにも出よう。
焼け石に水だろうと、掛けないよりはずっとマシだ。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/09/06(水) 17:54:11.87 kE7XeF/70
全裸で待ってたからいま牢獄から見てるよ、期待